第1章 好きって言って。爆豪勝己の場合
目が合うと戦場は嬉しくなって上体を起こす。
なんだが触れたところから気持ちが伝わったような気がした。
これなら言って貰えるかもしれない。
より目的の達成率を上げるためぐいっと体を爆豪に寄せる。
視線を絡ませて自分のリクエストを答えてくれるように”お願い、好きって言って”と念を送る。
その念が届いてか、爆豪の目がフルフルと泳ぎ出した。
大きく視線を外すわけではなかったが、惚れた女が至近距離で目を合わせてくると恥ずかしさと裏腹に噛みつきたくなる衝動に駆られ、誤魔化すように動揺しているのだ。
貧乏揺すりを止めた暖かくて柔らかく小さな手から体全身に熱を送っているようで体が熱い。
ほんのり爆豪から甘い匂いが漂ってきた。
緊張してるのだ。
この一言でこれほどまでに弄べるなんて思ってなかった。
構って欲しかったのはこちら側なのに。
からかっている事がバレたら酷いお仕置をされそうだ。
それはそれでいいんだけど。
爆豪は戦場がそんないやらしい事を考えているなんて微塵も分からないだろう。
今この瞬間をどう切り抜けられるかを必死に巡らせているからだ。
素直に言うか、言うまいか。
言いたいのに、喉から出そうなのに。
彼女の視線が言葉を奥に引っ込めてしまう。
そのまま引っ張りあげてくれたら楽なのに。
でも好きだから、愛しているからこそ簡単に言葉が出てこないのだ。
膝に添えられた手がサラッとひと撫でした。
その手に更に愛おしさを募らせた。
細くて白くて小さな手が自分の体に触れている。
愛してやまない女一部。
それに机に突いていないもう片方の自分の手を重ねてやる。
緊張で少ししっとりとした手だったが、戦場は気にせず指を絡めてきた。
膝では暖かく感じたのに手で触れると少しひんやりとした彼女の手が心地いい。
あぁ、プライドなんてクソくらえだ。
こんなに愛しい彼女が言葉を欲しがってんだ。
言葉ひとつもくれてやれねぇ男なんざクソ以外の何者でもねぇ。
戦場の行動ひとつひとつが爆豪のプライドをゆっくりと溶かした。
机に突いていた手を戦場の頬をサラリと撫で後頭部を優しく支えた。
戦場の目をしっかりと見据え、少し乾燥気味な唇をペロリと舐めてから口を開く。
「好きだ」
fin.