第9章 月詠の子守唄
暫く再会を喜んでそうした後、桜華から話を切り出した。
「珠世さん、明子さんと悟さんから聞いてると思うのですが.....。」
正直言わないといけない事は沢山ある。だけども、その中でも一番珠世たちが気になるところは、狛治の件だろう。
元十二鬼月が寝返って、人間に戻ることなど、珠世が鬼になって暫く無惨に連れ添っていた頃から前代未聞の話だ。
そしてその無惨の呪いからも十分に危険性がある以上、事前にも知らせていたが再度説明する必要があった。
「はい。正直驚きましたが、桜華さんは昔から突拍子のないことをされてきたので、あなたらしいと思っているのですよ....。
紹介してくださるかしら?」
どれほど昔の事を思い出していっているのか、困ったような懐かしいような笑みを浮かべながら、まるで我が子に話しかけるようにして珠世が尋ねる。
「夫の日神楽 狛治です。珠世さんにも文を出しましたが、彼は元上弦の参。いろいろ偶然が重なって人間に戻りました。
無惨の呪いは断ち切り隠密などもしておりません。
ずっとわたしに寄り添い続け、今わたしがここに在るのも彼のお陰です。」
以前までは言うなれば敵同士で、見つかれば無惨への手見上げで持っていく事も可能な鬼だ者だ。
それよく知る愈史郎は自身の事より、珠世の身を案じて警戒心を解いていない。
「全てが図り事ではないという保証がどこにあるというんだ。桜華の方も生後間もなくから今まで顔もろくに見ていないんだ。
いくらアイツにそっくり似ていようと他人の空似などということばもある。
珠世様を危険に晒すようなことはさせない。」
「愈史郎!口を慎みなさい。」
愈史郎のいう生後間もなくというのはどういうことかと疑問に思う。桜華が記憶しているのはそれよりはるか前の面影程度の珠世の姿だ。
だが、その疑問よりも、目の前の男の疑念を先に拭わねばならないと言葉を飲み込んだ。
「珠世さん、いいのです。愈史郎さんが仰る通りです。父が前世生かした珠世さんの大切な命と志です。それを絶やすことになってはいけません。
証拠になるかは解りませんが、わたしにも狛治には胸に日の痣、わたしには日の呼吸、月の呼吸の紋様の痣が背中にあります。
頸筋から見えると思いますが御覧に入れましょうか?」