第1章 unlucky men
「ニノ?食べないの?」
「あー、私は良いですよ。最近ゲームのし過ぎで太っちゃって」
「そうなの?そんな風には、見えないけど」
確かにニノは全くもって太っていない。多分、その無防備な一枚のスライムのTシャツの裾を捲れば、肋骨がありありと浮き出ているに違いない。
あんまり食べないと、頭がおかしくなっちゃうよ?と大野さんはぽつりと呟いて、目の前の山積した弁当に手を伸ばした。
内心、その通りだと頷いてばかりだった。だが、それを行動に出すのは憚られた。
罪悪感というか責任感というか、居心地の悪いものを感じているからだということは、もうとっくに気付いていた。
けれど距離の戻し方が分からなくて、昨日からずっとそのまま。俺ってこんなに、人との距離の取り方が下手だっただろうか。
美味しそうだけれど、カロリーはしっかり抑えられた唐揚げ弁当。
いつも通りだったら一も二も無く飛びつくのだけれど、なんだか今日は、ニノが弁当を食べないというだけで一気に食欲が消えた。
「あれ、しょおちゃんも食べないの? 美味しいよ」
「……いや、食べるよ」
ただ腹は減っていた。そして大野さんに不要な心配をかけたくなかった。
苦笑を隠して、輪ゴムを外す。
近くに置いてあった割り箸を割る。
斜めに亀裂が入って、それでも構わずに使おうとすると、親指と人差し指の間の水かきに、ささくれた竹の破片が刺さった。