第1章 unlucky men
彼は俺に紙袋を渡すなり、踵を返して、すたすたと廊下を走るように行ってしまった。目を合わせる暇も無く、この前の光景がフラッシュバックする。あの日、ニノを傷つけたまま、置き去りにしてしまった時間を。秘密基地の匂いの残る角に一人残され、呆然と、手元を見遣る。
紙袋の中にはそれなりの大きさの箱と、手紙が一通、入っていた。
真っ白な手紙の存在に動揺する。今まで、ニノから手紙とかもらったことは無かったから。柄にもない。
手紙は後にした方が良いかもしれないな、そう思って、恐る恐る、箱だけを取り出す。抱え込めるくらいの大きなサイズとは裏腹に、ふんわりと軽い。軽く振ってみると、カラカラと乾いた音がした。
——なんだろう?
周りを確認すると、客はおろか店員の一人もいない。その事実に少し安心しながら、好奇心に身を任せたまま、包装を解く。
紙袋を片腕に提げ、不器用ながら、空中でリボンをほどいた。正直なところ、この前のことを未だに根に持っているんじゃないか、なんて不確定な不安に怯えつつ。期待半分、不安半分。
カタリ、と箱が開いた。
中に入っていたのは、たった一つ。
どうやら、心配は杞憂だったようだ。
「……なんだよ」