第1章 開闢
AM1:30。眠る街を割るように、底抜けに高いチャイムが鳴る。
かちり、とインターホンのモニターをのぞいてみると、少し申し訳なさそうに目を逸らし、ポケットに手を突っ込んで立っているニノがいた。
「どうぞ、あがって!」
開けたドアから入ってくる空気は、都会の汚い部分をごちゃ混ぜにしたような、生暖かい不快感があって。
あのニノもうっすらと汗をかいている。
「どうしたの」
頭を撫でようとしたら、ぱしと左手で掴まれて、そっと降ろされた。
「べつに、おなかすいた、だけ。」
そう言って、ニノは信じられないくらい優しくドアを閉める。不器用さを忘れるくらいに。
「あのね、あいばさん」
今日のニノちゃんはどことなく儚くて。最近伸ばした前髪が、少しだけアンニュイそうな影をつくる。
「おれ、相葉さんのチャーハン食べたくて。」
困ったように笑いながらそう言う。
「いいよ、相葉ちゃん、頑張っちゃうよ!!」
「ありがとう…!!」
こういう時の笑顔は本当に無邪気で、あどけなくて、、時々見失いそうになる。というか、もう見失ってるんだろう。理性とかいう正義を。
俺たちは、いわゆる、大人の関係。男同士であるだけで。
ニノは大抵言い出せない。抱かれたいとかシたいとか言わない。でも家にはくるから、そっと抱いてやるんだ。彼には愛が足りてないだけ、だから。俺が少しでもそれを満たせたらいい。と思っている。正解なのかは分からない。
本当はたぶん、チャーハンなんてどうでもいいことをお互い分かっている。でも、それを踏むのが大切。step by step?? なんつって。
「相葉さん、まだ??」
人の家に来てまでかちゃかちゃとゲームをするニノのふてぶてしい声で我に返る。
「はいはい、もうできるよ、すわって。」
「なにそれ、こども扱い。」
ぷう、と頬を膨らますニノに、思わず苦笑する。プライドは高いくせに、ひとつひとつの仕草が愛おしいほどに可愛い。
「はい。相葉さん特製チャーハン。」
キャベツとハムをざく切りしてトッピング。ごま油をアクセントに入れた、中華要素強めのチャーハン。ふわっと優しい匂いが男ふたりの真夏の夜を包む。
「ほら、こっちのテーブルで食べて!」
リビングのソファに居座るニノを呼び寄せる。