第6章 ある夏の夜※
汗ばんだ髪を撫でながら
目尻に浮かんだ涙に口付けると
ナナはボンヤリと瞳を開いた
微睡みからゆっくりと覚ますように
響也はキスを落とした
" そんな風に優しくしないで欲しい "と
ナナから言われたけれど
響也の心の中はとっくに穏やかではなくなっていた
今夜自分の店で
ナナに注がれる他の男達の欲情したような目付きを目の当たりにした響也は
嫉妬のあまり正気を保てなくなりそうだった
今まで気付かないフリをしていたけれど
ザワザワとした醜い黒い感情が自分の中にある事を
響也はイヤという程思い知った
" 誰にも渡したくない "
他の男の手がナナの肩に触れそうになった時
響也はハッキリとそう思った
自分自身の感情に戸惑った響也は
ナナをタクシーに乗せ
作り笑顔を見せるのが精一杯だった