第6章 ある夏の夜※
響也はナナの隣にいる男に
タクシーを一台呼ぶように言った
「…どーしたケイ?…そんな怖い顔して…」
「早くしろ」
響也の黒いオーラに何かを感じた男は
慌ててタクシーを頼みに行った
響也は
ナナの腕を掴んで立ち上がらせた
「……行くぞ…」
愛子のテーブルに誰かつくように指示すると
ナナの腕を掴んだままエントランスまで引っ張って行く
『……響也…?』
「……」
響也の視線が
ナナを黙らせた
気まずい沈黙が
2人の間に流れた
店の前にタクシーが滑り込んで来ると
響也はナナを座席に座らせ
運転手に行き先を伝えて金を渡した
『…響也……私…』
「…ナナ……今夜も遅くなると思うから……先に寝てて…」
響也はそう言ってぎこちなく微笑み
ナナの頭を軽く撫でた
そして
唇を噛んだナナの目の前でタクシーのドアを閉めた
走り去るタクシーを見送り
店内に戻ると
入り口に雅が立っていた
「……まーだ…あんな顔させてるんスね…」
「……」
「…天下のホストが……好きな女ひとり笑顔に出来ないなんて…情けないっスよ…」
雅は響也に近づくと
真正面から見据えた
「…これ以上アイツの気持ち踏みにじるなら……俺…マジで攫っちゃいますよ?」
「……オマエには無理だ…」
「…それが分かってんなら!……今日は…早く帰ってやって下さい…」
俯いた雅をその場に残して
響也は店内に戻っていった