第5章 真夜中
名前は
杉本 リサ
17歳
都立の高校に籍はあるが
もう何ヶ月も通っていなかった
母親を幼い頃に亡くした彼女は
酒癖の悪い父親と
ふたつ年下の弟と3人でアパートに暮らしていたが
今年の3月
弟はリサの目の前で
車にはねられて死んでしまった
犯人はその場を逃げ
証拠を隠滅した
目撃者はリサだけだった為
警察は未だに捕まえる事ができないでいた
弟が死んでから
父親はアパートに女を連れ込むようになり
リサの居場所はさらに無くなった
身の回りの物を小さなスーツケースにまとめ
家を出たリサは
今
ネットカフェを転々としていると言った
宿代と食費を稼ぐ為だというアルバイトは
少し話を聞いただけでも危なっかしいと感じるようなものだった
「……」
話を聞いている間
サトルは何も言葉が出なかった
リサには
辛い時も
悲しい時も
頼れる人間が誰一人居なかった
そういう世界を
今まで生きてきたのだ
彼女は
まだ17歳だというのに
いくらリサが話したがらなかったからとはいえ
これまで彼女の身の上について何も聞いてこなかった自分自身に対しても
サトルは強い苛立ちを覚えていた
全てを話し終えたリサは
泣きそうな顔をして俯いた
「……どうした…?」
『………やっぱり…サトルには知られたくなかった……こんな話聞いたら………もう…私の事嫌になったでしょう?』
唇を噛んだリサの瞳から
涙が一粒こぼれ落ちた
「………リサ……」
サトルはリサをそっと抱きしめた
腕の中で震えるリサは
小さな子供のようだった
無知で
無力な
か弱い子供
リサの体を抱きしめながら
" 彼女を守ってやりたい "と強く思ったサトルは
静かな声で言った
「……リサ……ウチへおいで………一緒に暮らそう……」