第1章 出会い
-------- pm 11:00 新宿
ライブハウスの前に一台のタクシーが止まった
俳優の真山サトルは
知り合いのバンドのライブに招待され
お忍びでここへ来たのだった
くぐもった爆音に包まれ
薄暗い階段を降りていくと
途中の踊り場でガタイの良い男が女と口論をしていた
「いい加減しつけーんだよ!」
『…アンタが弟を殺した事を認めるまで何度でも言ってやる…』
「だったら証拠出してみろよ証拠を!」
興奮した男が女の長い髪を掴んで持ち上げた
「これ以上俺に付き纏うな…」
『離して!』
足をバタつかせている女の耳元で
男は唸るように言った
「…お前も殺してやろうか…」
『……』
サトルは階段の途中で立ち止まると
咎めるように男を見た
「……」
「…何見てんだよ……ケガしたくなかったら…早くどっか行きな」
「……」
「………クソ!」
そこに立っている人物が【俳優・真山サトル】だという事に気付いた男は
女から手を離すと悪態をつきながら階段を登っていった
踊り場の隅に叩きつけられた女に
サトルは近づいた
「…大丈夫?」
『……』
サトルが声を掛けると
女が顔を上げた
勝気そうな黒い瞳が一瞬だけサトルに向けられたが
それはすぐに逸らされた
女は
差し伸べたサトルの手を無視して立ち上がると
何も言わずに階段を降りて行ってしまった