第9章 交淡如水 【冨岡義勇】 1
「・・・そうか。子どもでないのならば・・。」
義勇の顔がゆっくりあやの顔に近付くが、ふと止まる。
「・・・あや。お前、好いた男はいないのか?」
「・・義勇殿。それを今聞きますか?」
呆れてあやが聞き返すと、当たり前の様に義勇が言う。
「いや、このまま続けて良いものかと気になった。」
義勇殿らしいと呟いてあやは義勇の藍色の目をじっと見る。
「・・・私は義勇殿をお慕いしております。」
「・・・そうか。では、続けよう。・・そんなに見るな。目を閉じてくれ。」
義勇はあやの唇に自分の唇をそっと重ね、頭を数回撫でる。
「涙は止まったな。」
目を開けたあやは微笑みながらまた義勇の藍色の瞳を見つめると、怪我をよけてそっと抱き付いた。
「義勇殿。私がいっぱい泣けば、いっぱい口づけをくれるんですか?」
「なんだその発想は。あやはやっぱり子供だな。」
また頭をよしよしと撫でながら呆れた口調で言う。
「・・あやの好きな時に口付けだって、抱擁だってすればいい。」
あやは驚いて義勇の肩口から少し顔を上げ、ちょっと顔を見ながらまた好奇心で聞いてみる。
「口づけと抱擁以外は・・・?」
「・・・あや。今いくつだ?」
「19です。・・年齢とか気にしてるんですか?」
「19なら、怪我が治ったら考えよう。」
「・・では、もう一度口づけしてもいいですか?」
「・・・好きにしろ。」
では、失礼します。と、あやは立ち上がって義勇の頬に手を添え、そっと顔を近づけてちゅっと口づけをする。急に恥ずかしくなり、真っ赤な顔になりながら義勇の肩に顔を埋める。そしてもう一度言ってみる。
「お慕いしております。義勇殿。」
「そうか。それは有難いな。さ、木刀を返して任務に戻れ。」
「・・木刀は没収です。寝てください。」
四日ほど入院して傷は殆ど完治し、義勇は退院した。
あやには言わせたくせに、義勇は「好き」と言葉には出さない。好きだろうけど。