第8章 赴湯蹈火 【煉獄杏寿郎】3 完
数か月後
あやは宇髄に身請けされ、四人目の妻として宇髄の別宅に使用人と一緒に住んでいた。
宇髄の言う通り、他の三人の妻達はどの女性もいい人で楽しかったし、宇髄もマメな男だったので、妻達が仲良く過ごせるように気を使ってくれた。寂しい思いをさせない様にと別宅にもよく顔を出していた。本名を教えると「あや、あや」と愛おしそうに呼んでくれる。
宇髄は暖かくなったら船に乗って色々な所へ行こう。あやに見せたい所が沢山ある。といつも楽しそうに話をしてくれた。
それは梅雨が始まる前だった。宇髄は一週間程北の方へ買い付けに行き、他の妻たちもそれぞれ商売の手伝いに行っていた。
あやはその日少し体がだるかったので、家にいた。
ふと庭の方で音がした。
使用人を呼ぶと「お客様です」と、庭へ続く障子を開けてくれた。
その先には数カ月前に笑顔で別れた幼馴染がいた。
あやは驚いて傍に行く。杏寿郎もあやの傍へ寄り、手を取る。
「あや。手短に言うから聞いてくれ。」
「君がまだ俺と夫婦になりたいと思ってくれるなら、今夜、少し遠いがここよりも暖かい所に向けて出発したい。そこで俺と暮らそう。」
「夜また迎えに来るから、それまでに身の回りの物をまとめておいて欲しい。この屋敷の使用人は俺が金で雇っている。人がいなくなる日を探って貰っていた。君と一緒にいなくなる手はずだ。荷造りを手伝って貰ってくれ。」
「杏ちゃん。・・・待って。本気なの?煉獄家は?」
「本気だ。親父殿が俺の縁談を決めようとしている。煉獄家は千に任せるように千と話を付けた。華族の仕事は俺には向かん。宇髄も君を正妻としていないなら制度上は問題ない。烈火のごとく怒るだろうがな。・・・前にも言ったが、君が宇髄を愛したなら諦める。」
「・・・・杏ちゃん。・・・諦めが悪すぎる。でも、私が愛したのはあなただけ。・・どこへでも行く。」
2人はその日突然消えた。
杏寿郎は煉獄家にはすべての遺産や権利を放棄する証文と、「もう戻りません お達者で」と書き置きを残し、宇髄の別宅には、あやの身請け金と同額の金、そして「あやを愛してしまった。すまない」と書き置いてあった。