第28章 束の間の休息(秀吉と)
蘭丸は、手枷こそされていないが一日中、誰かの監視下に置かれた。
(可哀想だけど、顕如と繋がってる以上、自由にさせては貰えないよな。他の武将達の目もあるし…。)
チラリと秀吉を見る。
『私の顔に何かついていますか?』
バッチリと目が合ってしまった。
『う、ううん!暑いのに秀吉さんは汗ひとつかいてないなぁ~と思っただけ。』
にっ、と笑ってひなが誤魔化す。
『心頭滅却すれは火もまた涼し。心を整え、夏の暑さを受け入れれば、そう苦ではありません。』
そんなこと言われても、クーラーや扇風機が当然の時代に育ったひなには、一日中 着物を着て過ごすことが、かなり大変だった。
(うー、もう汗だく…。)
数日後に行われる武田・上杉軍との正式な和睦会合の為、その書類作成に追われているのだ。
今は、「その前に急ぎの書簡に目を通して欲しい。」と秀吉に言われ文机の前だ。
(この人、優しそうな顔して人使い荒いような。)
『…とは言え、この暑さ。さすがの私も多少こたえます。』
文机を挟んで座っていた秀吉が、ぐいっと着物の合わせを広げる。
普段は隠れている鎖骨が見え、ひなはドキリとした。
(体のパーツまで色男って、どんだけですかっ!)
『ん?信長さま、顔が赤いようですが、大丈夫ですか?』
身を乗り出してパタパタと、ひなを団扇(うちわ)で扇ぐ。
(うぅっ、この体勢だと余計 見えちゃう…。)
『心頭 滅却します!』
ひなは書簡に視線を戻すと、物凄い早さで読み進めた。
文字も、本家・信長のお陰で難なく読めるのが救いだ。