第26章 外柔内剛(がいじゅうないごう)/後編
なんとか無事に2人は長屋の外に出る。
直後、長屋はグシャリと音を立て潰れた。
『お殿様!』
四郎が駆け寄る。
『ごめんなさい、俺…俺…。』
ふわりと その頭を撫でるとひなが言う。
『逃げ遅れた人も居なかったし、お母さんも無事で良かったね。
慶次を呼んでくれたんでしょう?ありがとう。
はい、これ。』
四郎の手を取って何かを乗せた。
『これ、俺の独楽(こま)!お殿様、取ってきてくれたの?』
『たまたま見つけただけなんだけどね。あー、でも、ごめんね、紐は燃えちゃったみたい。』
四郎が、ぶんぶんと頭(かぶり)を振る。
『いいんだ、紐はまた作る!この独楽、おとっつぁんが死んじゃう前に作ってくれた物なんだ。
ありがとう、お殿様!』
嬉しそうに、四郎は母親の所へ駆け寄ると、二人で深々とお辞儀をし去っていった。
『俺は町の坊主相手に道楽で槍を教えてやってて。
四郎もその内の一人です。あいつの父親は、先の戦に駆り出されて亡くなりました。
でかくなって自分が戦に行く時が来たら、慶次みたいに槍の使い手になって、家族も、お殿様も守るんだ!
…って、大層なこと言ってましたよ。』
思い出すように慶次が笑う。
『そんな日が永遠に来ませんように。』
ポツリと呟くと、ひなは城へと向かって歩き出した。