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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第61章 綢繆未雨(ちゅうびゅうみう)



……… 


同じ頃、越後の春日山でも、新年の盛大な酒宴が開かれていた…。



数人の家臣が慌てた様子で廊下を走る。

『まずい、酒が足りんぞ。』

『は、早く酒を持って来ねば。誰か手伝え!急いで蔵に…ぎゃっ!』


こそこそと話していた一人の背中を、謙信が軽々と踏みしだく。

『なにを廊下でこそこそとやっている。謀反の話か?』

『む、謀反!?滅相もない!我々はただ、謙信様の酒を取りに行こうとしているだけです。』

『そうか、そうか。』

謙信が頷いたのを見てホッとしたのも束の間、すぐさま青い顔になる。

『ならばさっさと行ってこい。俺の足元に寝ている暇があるならな。』

『ひっ、申し訳ございません!』

転がるように、家臣達がその場を離れた。


『うわぁ、これこそまさに濡れ衣。おっと。』

謙信は、声のする方に腰から抜いた刀を向ける。声の主、佐助が淡々とよけた。

『謙信様、いつも言ってますが、酒宴に刀は必要ありません。仕舞ってください。』

『いつ敵が襲って来るやもしれぬ。』

『無いとは言いませんが、そんな時のために俺がいます。なので俺を斬らないでください。』

禅問答のような答えに、「ふん。」と鼻を鳴らして、謙信が広間に戻る。その後について佐助も広間に入った。


『おお、佐助。君主に付き合わされて飲み過ぎてないか?』

嬉しそうな顔で信玄が声をかける。

『いえ、今の所はギリセーフです。』

『義理?清風??今年も相変わらず可笑しな言葉喋ってんな、お前。』

隣にいた幸村に突っ込まれた。

『危なかったけれど大丈夫という意味だ。つまり、いつも通りって事だから、心配いらない。』

『今年も苦労しそうだな。』

親指を立てる佐助の肩を、目を伏せながらポンポンと幸村が叩く。


『何が苦労しそうだと?』

『『いえ、なんでも。』』

『まあ座れ、謙信。』

信玄が3人の間に割って入る。

『なに苛々してるんだ?取って置きの酒を出してやるから落ち着け。』

何処から持ってきたのか、信玄が一升瓶から、謙信の持つ盃に酒を注ぐ。

ぐいと一息に飲み干して、謙信が目を細めた。

『言うだけあって、なかなかに美味だな。』

『そうだろう?近江の地酒だそうだ。

ひなが、色々と世話になったから飲んで下さいと送ってくれた。』
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