第49章 海誓山盟(かいせいさんめい)
『ああ、頼んだ。ついさっき同志になった男と、俺の大事な…お姫様だからな。』
そう言う元就の指が、壊れ物を触るように、ひなの頬を滑る。
『とっとと尼子を片付けて待機しておく。何かあったら、すぐに知らせろよ。』
頬の次は、ゆっくりと耳を撫でられ、背中にビリリと電気が走った。
『さーて、じゃれるのもその辺にしといてくれよ。出立するなら一刻も早い方がいいからな。』
慶次が元就の手首を掴み、ポイッとひなから引き剥がす。名残惜しそうに元就の指が離れた。
『くっくっ、なんだ、やっかんでんのか?慶次。なんなら、お前にも触れてやろうか。』
白い手袋をした手を慶次に伸ばすが、当然のように慶次は後ろに体を反らし避ける。
『悪いが、俺に そっちの趣味は無くてな。』
『奇遇だな、俺もだ。』
そんな二人の姿を、目を輝かせながら ひなが見ている。
『お前、また おかしな事を考えているな。』
いつの間にやら隣に立っていた兼続に言われ、ひなが我に返る。
(あっ、いけない!イケメン同士のなんやかんやを想像して、空想の世界にトリップしちゃってた…。)
『べ、別に~。さあ、行きましょう!』
赤くなる顔を隠すため、兼続の腕を掴みツカツカと歩き出す。
『お、おい、待て!』
面食らう兼続の後ろに、慶次と元就も続いた。
… … …
屋敷の玄関で、改めて挨拶を交わす。
『元就、世話になった。戻ったら急ぎ使者を送る。まあ、無事に俺達が安土に戻れたら、の話だがな。』
『戻れないと困るな。俺がついているのだぞ。』
自信たっぷりな兼続の言葉が頼もしい。
『ああ、だな。出来る限り俺の家臣にも守らせるが、限界がある。道中、気を付けろよ。
ひな、気休めだが持っていけ。』
元就が、ひなの手に何かを乗せる。
『ん?なに?』
掌に乗せられた物を見ると、チリリと可愛らしい音がした。
『これって…根付け?』
(※根付け~着物の帯に紐で ぶら下げて付けるストラップのような飾りのこと。)
『草津八幡の厄除けだ。気休めにはなるだろ。』