第39章 再寒松柏~帰蝶 商館編
あくる日の朝、再び進軍を開始した武田、上杉軍は怒涛の勢いで大阪を目指す。
お陰で夕刻には大阪入りを果たした。
目立たぬよう港から離れた宿場に、別れて宿を取る。
『謙信、佐助から何か報告があれば、すぐに知らせてくれ。俺達も商館に探りを入れてみる。』
『解った。』
短く言葉を交わし、謙信と信玄は各々の宿に向けて歩き出した。
もう少しで宿に着こうかとした頃合いで、物陰から音も無く佐助が姿を表した。
『謙信さま、只今戻りました。』
『佐助か、良く戻った。それで?朗報だろうな。』
『はい。元就は、勢力を拡大していることを良く思わない、同軍の尼子 晴久(あまご はるひさ)との戦いに兵を裂いているようです。堺にいる兵は少数です。
今は光秀と共に、帰蝶の商館に身を寄せているようなので、ひなさん…信長さまも、間違い無く商館の何処かに捕らえられているはずです。』
『ひな…あぁ、信長の幼名だったな。』
何かを思い出すように宙に視線をやり、謙信はその目を細めた。
『乞食若様と呼ばれた男が欲をかいたか。大人しく今の地位に満足していればいいものを。
…二兎を追う者は一兎をも得ず、だ。元は俺の獲物だった信長にまで手を出したこと、必ず後悔させてくれよう。』
謙信は不適な笑みを浮かべる。
『今宵、丑の刻…商館に殴り込む。異論は無いな?佐助。』
『はい。いつもなら全力で止める俺ですが、信長さまの命がかかっているとなれば話は別です。
全力で共闘すると誓います。』
『謙信さま。それでは至急、武田側にも伝えねば。』
黙っていた兼続が口を開いた。
『俺が今から知らせに行きます。それでは、ドロン!』
佐助は壁を蹴って、ヒラリと屋根の上に飛び移る。
あっという間に見えなくなった佐助を見送り、謙信達は一旦 宿に入った。