第1章 1.
──この世界はどうかしている。
この世界は魔物がたくさんいて、魔物による被害で亡くなる人は少なくない。広大な空に浮いた島、人々はその島にだけ繁栄を許されている。
空の広さと比べたら、生きることを許された島なんてちっぽけなもので、その狭い箱庭で魔物も人も争い合う。強いものは弱いものを虐げてのさばる。弱いものは自分よりもより弱いものを虐げる。
じゃあ、そのもっとも弱いものはこの世界でどうすれば良いんだろう?
ただ、この狭い世界でただ細々と生きていたいだけだったのに。
私も…弱きもの。子供というのは戦うことも出来ず、守る術を持たない。私はそんな大人になりきれない子供だった。
この小さな島で生まれ育った私。
守ってくれる家族も居た。父は商人で珍しいものを取り寄せて売っていた。母は父を手伝い、食堂で働く。
私には5歳離れた妹が居た。家族4人、毎日の幸せを噛み締めて生きていた。
どうして。
その幸せはあっという間に崩壊した。
土汚れ、擦り傷を負い物陰に隠れて、ボロボロの衣服の自分の体ごと抱きしめる。
ガタガタと寒さと恐怖に震えた。
戦う事も知らなかった。抗うことも知らなかった。
小さな島の中で、幸せでのびのびと生きた私に降り注いだ突然の悪夢。
夢なら覚めて。
震えて膝を抱え、膝小僧に顔を伏せる。過ごした家はもう無いから、家の外壁の影に寄り添うように息を潜める。
ザ、ザッ…ザッ。近付く足音に体を縮こませて存在がバレないようにと動きを止めた。
男の人は怖い、男の人は乱暴だ、男の人は嫌いだ……、父を銃で殺し、母を連れ去って…母は外で抵抗したので殺されてしまった。
妹は部屋で乱暴されて騒いだ為に殺されて、私はリビングで……。
思い出して吐き気を催す。
そんな私に、おい、と声を掛けられる。
怖い。けれど従わないと殺される。
恐る恐る上げた顔。中腰で私を見ている銀髪のエルーン族の男性。