第3章 黒子 テツヤ
昼休み。
私は、いつものように図書室へやって来ていた。
まず、借りていた本を返却して、お気に入りの窓際の席へ座る。
それから、近くの棚から昼休みで読みきれる厚さの、それでいて面白そうな本を取り、開く。
その内容が予想以上に面白く、あっという間に読み終えてしまった。
よいしょっ、と背伸びして本を戻し、二巻目を探す。
が、なかなか見つからない。
首を捻ってから、何気なく、棚の一つ上の列を見る。
「あっ!」
そのシリーズの二巻目は、列のど真ん中に鎮座していた。
さっそく取ろうとして、ギリギリまで爪先立ちしながら手を目いっぱい伸ばす。
「〜〜〜っ!」
届かない。あとちょっとなのに。
「あぁ、もうっ!」
近くに踏み台はないかと見回すも、いつもならあるはずの場所にも見当たらない。
いっそのこと椅子を踏むか、と思い至った所で、後ろから誰かが覆い被さってくる。
一瞬体が強張ったが、不思議と恐怖はなかった。
「____あ」
私の手のやや上あたり、つまり、丁度取ろうとしていた本に、私の背後に立つ人の手が伸びた。
そしてそのまま本を棚から抜き取る。
振り向いてみれば、そこには顔見知りの図書委員の人が。
「どうも。困っているみたいだったので、つい」
ほんの少しだけ口の端を上げて微笑む黒子くん。
「え、ぁ……、ありがとう!」
一瞬だけその笑顔に見惚れて、でもすぐにお礼を言う。
そんな私に、黒子くんは一つ提案をした。
「これからは、本に手が届かないなら、僕が取ってあげますよ」
「で、でもそんなことしたら、黒子くんの、」
「迷惑にはなりませんから」
否定する言葉も先読みされてしまった。
「…………じゃあ、今度からお願いします」
「はい。遠慮しないで頼って下さい」
どうぞ、と本を手渡して去って行く黒子くん。
その優しさにときめいてしまったのは秘密。
(……かっこ、よかったなぁ……)
(誰がですか?)
(ひゃぁ! 黒子くん!? いつからそこに!?)
(最初からいました)