第1章 赤司 征十郎
「赤司」
部活の練習の最中。
シュート練習に集中している緑間が珍しく声をかけてきた。
「どうした」
手を止めて振り向くと、
「お前の彼女が来ているのだよ」
「が?」
頷いた後、用は済んだと言わんばかりに立ち去る背中を見送り、体育館の入り口を見る。
ひょっこりと顔を出している女子と目が合った。
その瞬間、くるっと背を向けて駆け出した背中を呼び止める。
「?」
ビクッと振り返る。
側に寄り、俯いてしまったその小さな頭を撫でる。
その肩は、小刻みに震えていた。
思わず、呆れた溜め息を吐く。
「部活の時は来るなと言わなかったか?」
「ごめんなさい」
怒られると思ったのか、その目に涙が浮かび、申し訳なさそうに眉が下がった。
この表情に、微かな苛立ちは吹っ飛び、代わりに愛しさがこみ上げてくる。
「怒っていないから」
優しい声でそう言い、小さな体を抱きしめる。
きょとん、とした表情になって、瞳をクルクルと回す。
そんな姿を見て、浮かぶ言葉はただ一つだけだった。
腕に力を入れ、耳元でそっと囁く。
瞬間、真っ赤になって首を振る。
端からみれば、部活中にいちゃつくただのバカップルである。
だがそこへ、思わぬ横槍が入った。
「赤司くん、いつまでそうしているつもりですか。早く練習に戻ってください」
二人の世界は一瞬にして崩れ、その原因を作った張本人は涼しい顔で立ち去った。
「黒子…」
どちらからともなく離れ、二人は恨めしげな目で黒子の後ろ姿を見送った。
だが、言っていることは正論なので、大人しく練習を再開する。
だが、その前にふと思い出し、振り向いて言った。
「、椅子があるから、座れ」
の頭が傾いだ。訳がわからないという表情だ。
「来てしまったんだから仕方が無い。しっかり見学していけ」
漸く先程の言葉を理解し、みるみるうちにの顔が笑顔に変わる。
「うん」
「終わったら家まで送って行くよ」
「ありがと」
走っていく姿を見、にっこりと微笑む。
「本当に、可愛いよ」
囁いた言葉を、もう一度繰り返しながら。