第8章 気持ち
その時、後輩の一人が身を乗り出しながら聞いてくる。
「もしかして、煉獄さんの彼女っすか!?」
後輩にそう聞かれると恥ずかしいが嬉しくもなる。
「う、うむ!緋里陽奈子だ!俺の大切な人で愛する人だ!」
堂々と紹介すれば「おぉ~!漢っすね!」「めちゃくちゃ可愛いじゃないですか、うらやましいっす!」と口々に言ってくる。
「は、はじめまして…杏、寿郎がお世話になってます!」
ぺこりとお辞儀するとさらに「おぉっ!!」と歓声が上がった。
すると、あの少年が陽奈子の背中にそっと手を置いて「陽奈子席あっちだって、いこう?」とエスコートするように背中を押した。
「よ、よもやっ……!!!」
それを見た俺は、頼んで手元に来たばかりのグレープフルーツを、手でぐしゃりと握りつぶしてしまった。
本来ならば、絞り器で絞ってからその絞り汁をサワーに入れて飲むのだが……
またも"嫉妬"で可笑しくなりそうだった。
「ぶっはは!おー、こわっ!普通それ手で握りつぶすかっ?どんだけ妬いてんだよ!…あの男は陽奈子のことどう思ってんのかねー?ニヤニヤ」
宇髄が楽しそうに片方の口角を上げて、ニヤニヤとこちらを見てくる。
「笑い事ではないぞ!?今のあれはどういうことだ?!陽奈子にさわ」
ぐいっ
言い終わる前に誰かに腕を引かれる。
振り返ると百瀬少女が握り潰してしまったグレープフルーツの後処理をしてくれる。
「杏寿郎さん?食べ物で遊んじゃダメですよー?はい、これで大丈夫です!あ、これ食べます?おいしいですよ!!あ、グレープフルーツも頼まないとですね!」
先程の出来事を忘れさせるかのように、あれこれと何か気を遣ってくれる。百瀬少女のその表情はどこか焦っているように見えた気がした。
だが、俺はあっちが気になって仕方がない。