第1章 1章 事件の足音
「ひったくりだー!」
白昼の商店街に響いた声に、カナメと志音は声の方を振り返る。その瞬間、風を切って人影が隣を駆け抜けていった。
「カナ」
「志音」
お互いに声を掛け合い、ひったくり犯を追う。二人とも運動神経が悪い方ではないのだが、犯人の足も速くなかなか差が縮まらない。
商店街を抜けて、その姿を一瞬見失う。
「あそこ」
「バイクに乗って逃げる気?」
志音が指差した先で、男がバイクにまたがろうとしていた。
「その人ひったくり!」
「誰か捕まえて」
志音とカナメが発した言葉に近くの人が反応した。女の子だ。
走り出そうとするそのバイクに無理やりつかまり、一緒に乗って走り出した。
犯人が女の子を振り切ろうとする中でもしっかりとしがみつき、振り落とされない。
バイクの走る方向から行き先を先読みして、カナメと志音は回り込んだ。
予想通りバイクが走ってきた。しかし相手がバイクで走っているのでは、止めようがない。
後ろに乗っていた女の子が左手で犯人の身体にしがみつき、右手をハンドルに伸ばしてそのままギュッとブレーキを握る。
「うおっ!!」
前輪にロックがかかってバイクは宙を舞った。
何が起きたのかわからないまま犯人は道路にたたきつけられる。女の子はしっかりと足の裏から地面に降りた。
バイクが道路をギシギシと擦る音の中にサイレンが混ざる。誰かが警察を呼んでいたのだろう。
カナメと志音の目の前で起きた逃走劇と鮮烈な幕引き。
よく見ると女の子は、恐らくカナメ達と同年代。バイクに乗ったひったくり犯にしがみついた上、ブレーキを掛けて止めさせ、無傷で着地しただなんて信じられないくらいに、普通の女の子に見えた。
警察が地面に倒れたひったくり犯に気を取られている中、女の子はさっさと姿をくらましたのだった。