第11章 あなたへの気持ち
杏寿郎はその日から時々に言われたように、つらい任務の後、自分を責めてしまいそうな時や心が苦しい時に、を抱きしめながら抱えきれなくなった気持ちを吐き出すようになった。
そんな時は杏寿郎の顔を見ないようにし、背中に腕を回して抱きしめながらひたすら「うん、うん」と話を聞き、言い終わるのを待つ。
本当にごくたまに杏寿郎が泣いている時があるが、いつもと同じようにぎゅっと抱きしめ、落ち着くのを待つ。
杏寿郎は心の中で区切りが付けば自分で顔を上げ、少し恥ずかしそうに「ありがとう」と言って微笑む。はその顔がたまらなく好きだった。
日常的に人が死ぬ。知っている人も、知らない人も、大人でも、子供でも。あっさり簡単に目の前で命が消える。鬼殺隊は想像していた以上に過酷な仕事だった。それだけでなく、杏寿郎の肩には「名門煉獄家」の名前や、不安定な父親、若くして亡くなった母親の願い、まだ幼い弟も載っている。14歳には重すぎる。
杏寿郎の重荷を少しでも軽くしてあげたい。
選別の日、杏寿郎が声を掛けてくれたから、今笑いながら生活することができている。
4年前、私のせいで鬼に喰われてしまった大好きな家族。大好きな家族に対しての贖罪で押しつぶされそうな気持ちをごまかす為だけに、ひたすら体を鍛え、技を覚えた。それでもどんなに体が疲れていても眠ると悪夢にうなされる。
鬼を滅する為というよりも、自分の心がこれ以上傷付かないようにすることだけを考えて刀を振るう毎日。何を食べても味が分からず、何を見ても灰色に見えたあの頃。
最終選別のあの日。久しぶりに私の目に飛び込んできた、燃えるような金色と赤色。
今思うと、私も杏寿郎も知らず知らずのうちに、折れそうな心を支えてくれる人を探していたのかもしれない。私はもう随分助けてもらった。世界は色にあふれ、香りを感じることも、人を愛しいと思う気持ちまでもらった。
私は杏寿郎の為に何ができるだろう。少なくとも重荷の一つにならないように。絶対に杏寿郎の目の前で死んではいけない。そして、足手纏いにならずに肩を並べて戦えるように・・・・。