第65章 余裕のある大人の夜
「え、なに。
今の笑うところじゃねぇだろ。」
ジャンはそう言うと、
エマの顔を覗き込む。
「いや、この状況で鼓動確認する
ってなったら胸触るでしょ。」
エマは笑いながら言った。
「そ、そんな簡単に触るわけねぇだろ。」
ジャンは少しどもりながら言う。
「……ねぇ、ジャン。
もしかして、したことない?」
エマの問いかけに、ジャンは一気に赤面した。
そしてしばらくの沈黙の後、
「……なかったら、どうなんだよ。
初めては、本当に好きなやつとしてぇだろ。」
と、顔を背けながら言った。
「ほんとに?
噂では、ここの調査兵は
調査前に一度は経験してる、
みたいなこと聞いたけど。」
エマは驚いた表情でジャンを見る。
「何言ってんだよ。
そんな緩いやつばっかなわけねぇだろ。
いくら男でも、誰でもいいって
思ってないやつくらい、いるんだよ。」
「それなら他にも童貞仲間がいるのか。」
「ちょ、そんなはっきり童貞とか言うな!」
ジャンは焦ったようにエマを見た。
「でも、それならジャン、
当分できないかも知れないね……」
「おいおい、
いきなり残酷なこと言うなよ!」
ジャンは思わず突っ込む。
そして、エマの手を握ると
「もし、ここでエマさんが
してくれるんだったら、
その心配はなくなるけど。」
そう言って、エマの目を見つめた。