第49章 スビト・フォルテな衝撃【渋谷事変】
「はははっ……! やっぱ、そうだ。オマエは五条先生じゃねぇ」
「…………?」
なんだ? 気でも触れたか?
「何……」
「オマエの術式の理屈とか、仕組みとか、何一つ分かんねぇけど……オマエ、誰に化けてんのか分かってんのか? 五条 悟! 最強の呪術師だぞ‼︎ その最強が……ッ!」
虎杖が腰を低く落とし、拳に呪力を込める。
また来る――渾身の一撃が!
「俺“なんか”に殺されるかもとか、思うわけねぇだろ――……ッ‼︎」
身を引こうとすると、追い詰めるようにさらに一歩を踏み出し、虎杖の手が胸倉を掴んで引き寄せてくる。そして、身体が吹き飛ぶほどの勢いで殴りつけられた。
「やっぱ、全然 似てねぇわ。今の戦い、本物の先生だったら 俺の拳を避けるなんてしねぇ」
――五条 悟……どこまでも目障りな小僧……ッ!
自分たち呪詛師はいつだって自由だった。
年々 活発になる呪霊の相手で術師は手一杯。上手く立ち回れば、何にも縛られず楽に稼げる。
自由に、我が儘に、呪詛師は生きていた。
それが二十九年前、五条 悟が生まれた。
【六眼】を持った赤ん坊が。
瞬く間にトータルの賞金は億を超え、呪詛師たちはこぞって五条 悟を抹殺しようとした。
【六眼】を持っていようがガキはガキ。成長して術式を使いこなす前にさっさと殺してしまおう。
そう思って、五条 悟を拝みに行った。
まずは下調べ。何事も入念な準備が必要だ。
一目見た瞬間、怖気が走った。震えるほどに恐怖を感じた。
年々 増す呪霊―― 一瞬でその原因を理解した。
――五条 悟だ。
陸上競技の不動の世界記録が急に更新され出すように。
フィギュアスケーターが、ある選手を境に次々とジャンプの回転数を上げるように。
五条 悟が生まれて世界の均衡が変わったのだ。
自分たち呪詛師は自由だった――その自由を、晩年にして奪われたのだった――……。
「強すぎるんですよ、あの“化け物”――……」
そう掠れた声で呟いて、辺見は意識を失った。