第48章 混乱極まるラプソディ【渋谷事変】
――20:51
東京メトロ 明治神宮前駅 2番出口側
駅構内の券売機の前で、補助監督の女性がサラサラとボールペンを走らせる。真っ白な紙にホームが描かれ、そこに二重の円が描き加えられた。
補助監督の女性の話では、地下鉄の駅全体を覆う“一般人を閉じ込める【帳】”があり、その内側 副都心線ホームを中心に“術師を入れない【帳】”が下りているらしい。
さらに、二つの【帳】の間に、これらの【帳】を下ろしている呪霊か呪詛師がいると考えられるとのことだ。
「間? 中心のホームじゃなくて?」
冥冥の質問に、補助監督がコクリと頷く。
「おそらくですが、自分も外に出るデメリットを抱えて結界の強度を上げているのだと思います」
なるほど。
あえて自分に不利な状況を作っているというわけか。
すでに補助監督二名が殺害されていると、彼女は続けた。
「それから、【帳】の間に……断言はできないのですが……」
歯切れの悪い言葉に、冥冥が「構わないよ」と先を促す。それを受け、補助監督は一度 キュッと唇を引き結び、再び開いた。
「【帳】の間に、改造された人間がいます」
固い声音で紡がれた言葉に、虎杖の脳裏に一人の男が過ぎる。
命を弄び、順平を殺そうとし、そして……星也と戦うも、最後の一歩で取り逃した呪霊。
あのとき……自分が倒れなければ……星也一人なら祓えていたはずだ。自分が足を引っ張ったせいで祓えなくて……今、こんな状況に……。
そう思うとやるせなくて、虎杖はギュッと拳を震わせる。
そこへ、冥冥に「虎杖君」と名前を呼ばれた。