第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
『展延を解くな、花御!』
五条が笑みを深くし、跳躍して一気に花御と距離を詰めた。足で押さえつけ、目元の樹木を掴む。
「ココ、弱いんだって?」
ドリュリュリュ! と勢いよく引き抜き、花御の眼窩に虚ろが広がった。その虚ろからはとめどなく血が流れる。
「やっぱりな。展延と生得術式は同時には使えない」
そう。自分が先ほどまであの程度で済んでいたのは、展延で身を守っていたからだ。
基礎的な呪力操作と体術でこのレベル。
――五条 悟……逆に貴様は何を持ち得ないのだ!
眼窩から引き抜いた樹木を投げ捨て、打ち伏す花御を見下ろす五条に背筋が凍る。
不意に、バシュッと漏瑚の横を血の弾丸が通り過ぎ、五条の背後にいた人間たちを貫いた。
『チッ』
五条を狙った【九相図】の受胎――脹相の【穿血】が五条の無限に弾かれる。だが、あまり戦闘にやる気は感じられない。
そのことに苛立ちを感じている中、花御がふらりと立ち上がった。
【領域展延】を纏って五条へ拳を振るい、漏瑚も同じように拳を打ち据える。それを五条が無限を展開して防いだ。
「いいのか? オマエが展延で僕の術式を中和するほど、僕はより強く術式を保とうとする。こっちの独活(うど)はもうそれに耐える元気ないんじゃない?」
スッ…と身体をズラし、花御へと無限を押しやった。ゴリゴリと五条の無限が展延を破り、花御へ迫った。パキ…ミシ…と花御が押し潰されていく。
『五条 悟! こっちを見ろ‼︎』
慌てて気を逸らそうと漏瑚は炎を人間に向けて放とうとしたが……遅い。
次の瞬間には、ホームの壁に血が弾け、花御は跡形もなく消し飛んでいた。
『花御……』
ザッ…と衝撃で煙が立つ。
まさか、自分たちの中では最も強靭なタフネスを持つ花御がこうもあっさり……。
けれど、漏瑚には驚く暇も、仲間を失った悲しみに暮れる暇も与えられない。
「――次」
そう低い声で紡がれた たったの二音。
視線だけで切り裂かれるのではと錯覚するほど鋭い【六眼】。
漏瑚には、五条の放つ圧倒的な存在感が、もはや死刑宣告のような気さえしていた。