第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
――「この程度で僕に勝てると思ってる脳みそに『驚いた』って言ってんだよ」
そう言って向けられた冷めた【六眼】と低い声音、そして空気を震わせるほどの殺気に、火山頭――漏瑚は間違いなく気圧され、震えた。おそらく、五条の言う雑草――花御も同じだろう。
本気だ――いや、最初から本気だっただろうが、そこに乗せられた覚悟が違う。逆鱗に触れた。確実に祓いにくる。
「ほら 来いよ。どうした?」
ホーム扉の縁から線路へ降り、五条が両手を広げてこちらへ向かってくる。ノーガード……なのに、隙が全く見えない。
ジリジリとした膠着状態を破ったのは五条だった。気圧されて動けない漏瑚へ、五条が長い足で素早く距離を詰めてくる。
反射的に漏瑚は拳を、花御と蹴りを放つ――その漏瑚の拳を、五条が手の甲で挟んで受け止めた。
なんだ――今、直接 触れ……。
そんなことを考える間もなく、腕を掴んだまま五条は身を低くして花御の蹴りを躱す。さらに足で身体を固定され、「せーのっ」という掛け声と共に腕が引きちぎられた。
激痛に悲鳴を上げることもできない。さらに頭上から花御の拳が振り下ろされるが、五条は漏瑚の腕でその拳を受け止める。
ちぎられた腕を治していると、飛び退いた花御を追うことなく、五条がこちらへ向かってきていることに気づいた。
花御を狙う宣言は心理誘導か?
本当の狙いは自分なのか。
そのうえ この男――【無下限】を解いている。
術式の微力調整を捨て、人間が捌けてきた線路内のスペースで、呪力操作のコンパクトな攻めに回るつもりか。だが、これならわざわざ人混みに紛れる必要はない。
自分たちの仕事は時間稼ぎ。
呪霊攻略に非術師の救出。
とにかく、五条 悟を集中させる。
最低でも二十分――そのあとは夏油 傑と【獄門疆(ごくもんきょう)】の出番。
――何としてでもやり通す!
そのとき、花御の背後からパキキ…と音を立てて樹木が伸びる。花御の術式だ。