第47章 長き決戦のオーバーチュア【渋谷事変】
『逃げたら……か。回答は――逃げずとも、だ』
突如 ホームの扉が開き、線路へと人々がなだれ込んできた。いきなり線路に放り出されて戸惑う人々に、「下がって、死ぬよ」とホームへ上がるように促す。
なるほど。先ほど出口を塞いだのは、向こう側に人間がいるか分からなくするためか。
さすが、指名して呼び出してきただけはある。こちらのことは対策済みというわけか。
そこへ、火山頭が線路にいた人間を燃やし始める。次いで雑草も長い腕を振って引き裂いた。
『【赤血操術(せっけつそうじゅつ)――「苅祓(かりばらい)」】』
【九相図】が血液を操り、線路にいる人間を縦横無尽に貫いていく。
そうか。明治時代に生きた史上最悪の呪術師・加茂 憲倫によって生み出された呪物だから、加茂家相伝の【赤血操術】が使えるのか。
悲鳴が上がり、混乱と恐怖の坩堝に落とされる線路内――いや、線路の様子を見ていたホームの人間たちも同じ。死への恐怖に支配され、我先にと逃げ道を探す怒号、嘆き、命乞いの声が飛び交う。
線路に人間を引き入れて人混みに紛れれば、こちらは迂闊に動けない。だが、向こうは人間を巻き込んだっておかまいなしというわけだ。
そこへ、火山頭が背後をとり、雑草が正面から殴りかかってきた。迫る拳が無限に阻まれる。瞬間――ズズ…と呪力がうねる。
『『――【領域展延】』』
ゴリゴリと無限が削られ、五条は咄嗟にその場を離れ、ホームの扉の縁に飛び乗った。
「ナルホド、というか……呪詛師と組んでんだから、そう来るか」
呪霊が【領域展開】を使っても、【領域展延】なんて芸当を知るはずもないし、そもそも使う必要がない。教わったと考えるのが自然だろう。
【領域展延】――あれは【シン・陰流 簡易領域】と同じ。本来の相手を閉じ込める結界術としての【領域展開】を“箱”や“檻”とするなら、【領域展延】は自分だけを包む液体――“水”。
領域を押し返すときの書道に近い感覚か。必中効果は薄まるが、確実に相手の術式を中和できる。これなら自分の無限を削り、攻撃を当てられるだろう。