第5章 アレグレットに加速する心【自分のために】
まだ、昨日 初めて呪いという存在を知ったばかり。
それに、昨日は混乱に次ぐ混乱の中で、命の危機もあるスレスレの状況。
つまり、虎杖がしっかりはっきりこの目で呪術というものを見るのは、これが初めてだった。
訓練場について行き、伏黒と詞織、星也が中央に立つ。
虎杖は星良と一緒に端で見学することとなった。
「じゃあ、始めるよ。遠慮しないで、好きに攻撃してきていい」
そう言われて真っ先に詞織が動いた。
「【山川に 風のかけたる しがらみは 流れもあへぬ 紅葉なりけり】」
瞬間、ゴォッと炎が渦を巻き、星也の周囲を取り囲む。
その間に、伏黒は手を組み合わせて影絵を作った
「――【玉犬】」
伏黒の影から飛び出した白と黒の犬には、虎杖にも見覚えがあった。
二頭の犬は、黒と白の軌跡を描きながら、炎を飛び越え、星也を襲うべく牙を剥く。
「【霜柱 氷のはりに 雪のけた 雨のたるきに 露のふき草】」
星也が歌うように口にすると、詞織が「あ」と声を上げた。途端、炎がフッと音を立てて消える。そして、半身をずらし、玉犬たちの攻撃を躱した。
「まだまだ……メグ!」
「分かってる。玉犬、怯むな! 畳みかけろ!」
伏黒が指示を出す後ろで、詞織が軽く息を吸い込んだ。