第42章 鮮明なリバーブ【呪術廻戦0】
「星也」
病室にやって来た五条に、星也は緩慢な動作で振り返った。辺りには古い書物がいくつも散乱し、振り返った拍子に足の先がぶつかる。
「……ひどい顔だね。一晩中やってたの? 解呪は【陰陽術式】の十八番(おはこ)でしょ」
「……解呪……できない……」
今までこんなことはなかった。手応えもまるでない。
一度 家に帰って神ノ原一門の文献も紐解いた。それでもできなかった。
呪力も辿れない。手口が巧妙で、狡猾な相手だ。
「大元を叩かないと解けない呪い、ってことだね。そういえば、夕方頃 恵と詞織が来たよ。津美紀をこんな目に遭わせたヤツを祓ってやるから稽古をつけてくれってね」
「はは……頼もしいな……」
「星良も情報を集めているみたいだよ。なんでも、津美紀は夜の八十八橋に行ったことがあるみたいだ」
「八十八橋……」
あそこは有名な心霊スポットだ。【呪い】が発生していてもおかしくはない。だが、仮に八十八橋で【呪い】を受けていたとしても、あそこで発生するレベルなら解呪できる。おそらく、津美紀を呪っているのは別のもの。
それに、星也は津美紀に対して強めに【守護】のまじないを施していたし、星良も身を守れるようにと護符を持たせていた。
呪霊に襲われることもないし、呪いをかけられることもありえない、はずだった……。
「……津美紀……」
眠る彼女の前髪を払う。今にも目を開きそうなのに、彼女は目覚めない。
「どうしたんだい、星也。相手が星良ならまだしも……君にしては珍しく冷静さを欠いているね」
五条の言う通りだ。相手が星良でない限り、もっと冷静に対応しているだろう。
津美紀でも、詞織でも、伏黒でも。
焦りが何も生み出さないことはよく分かっている。