第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「前からやってた掌印の省略は完璧。【赫】と【蒼】それぞれの複数同時発動もボチボチ。後の課題は領域と長距離の瞬間移動かな。高専を起点に障害物のないコースをあらかじめ引いておけば可能だと思うんだ。硝子、実験用のラット貸してよ」
五条の要求に、家入が「えー……」と顔を顰める。
【星漿体】護衛失敗の一件から、星也は星良と共に高専を訪れることが多くなった。
学長である夜蛾の口利きもあり、次の日が任務のときは、前日に資料を確認してそのまま寮に泊まらせてもらうこともある。
もともと学校へは通っていない。中学までの学習範囲はとっくに学び終えているし、義務教育は出席日数が卒業条件ではないため、籍は置いているが、一度も登校したことはなかった。
「なぁ。星也は術式発動の工程が多いよな? 省略とかしねぇの? こんなん省いてなんぼだろ」
呪術で大事なのは引き算だ。呪詞や掌印などは相手に発動する技を知られるリスクもあるし、早い方が先手を取ることもできる。
つまり、いかに省略できるかが術師の技量でもあるのだ。
「【陰陽術式】の真言や祝詞は唱えることが一種の儀式なので、省くことができないんですよ。それでも、少しずつ真言の小咒を習得しているで、あとはどれだけ威力を保持できるかが課題ですね」
しかし、全く省略できないわけではない。
十二天将たちも、名前だけで呼び出せるようになり、呼び出しのときに指示を出していれば、タイムラグなしですぐに命令を遂行可能だ。
星良の【書字具現術】も呪符や護符にしておくことで、戦闘中の『書く』という弱点を克服している。