第40章 正しさに混ざるノイズ【玉折】
「早かったな。星也の術か?」
「そう、ですけど……」
どこか無気力な声音と異様な光景に、星也は緊張した面持ちで返す。
「悟……だよな?」
まるで信じられないものを見るように、夏油が目を丸くし、冷や汗を流していた。
当然だ。きっと自分も同じ表情をしていることだろう。
まるで別人――纏う空気も、気迫も……存在そのものが、今まで見てきた五条ではない。
「傷を治したの、硝子だろ。星也は呪力 ほとんど使い切ってたからな」
「あぁ……硝子に治してもらった。私は問題ない」
そこまで言って、白い布から溢れる理子の手に、彼は「いや」と痛ましげに目を伏せた。
「私に問題がなくても仕方ないな」
「理子さま……僕が……」
星也も奥歯を噛み締める。
何か、もっとできることがあったのではないか。
自分が五条の元に残らず、言われた通り理子の護衛に参加していれば何か違っていたのだろうか。
もっと早く駆けつけられれば、守ることができたのだろうか。
きっと、何も変わらなかっただろう。
自分は弱くて、あの黒い男には手も足もでなかった。
それでも、考えずにはいられない。
理子も黒井も死なずに済む方法が、何かあったのではないかと。
「俺がしくった。オマエらは悪くない」
「……帰ろう、二人とも」
未だに拍手が響く中で、夏油が星也たちを促す。すると、五条が「傑」と夏油を呼んだ。