第38章 襲いくる黒きヴィオレント【壊玉】
「術師なら死なねぇ程度に斬った。式神使いなら殺したが……【呪霊操術】となるとな」
死後、取り込んでいた呪霊がどうなるか分からない。
高専の術師を蠅頭で足止めできなかったから、できれば面倒事は避けて早めに切り上げたい。
「親に恵まれたな」
黒い男――伏黒 甚爾は嘲笑を浮かべ、血を流して気絶した夏油の頭を足で小突いた。
「だが、その恵まれたオマエらが、呪術も使えねぇオレみたいな“猿”に負けたってこと……長生きしたきゃ、忘れんな」
呪具を呪霊に呑み込ませながら、甚爾は「ん?」と首を傾げる。
恵まれた……恵まれた?
最近 どこかで聞いた気がする。
どこだっけ、とここ数日の記憶を辿った。
今日は高専に来て、その前はたこ焼き食べて、その前は競艇で金をスッて……。
――「恵は元気か?」
耳の奥で孔の声が聞こえ、「あー」と広い【薨星宮】に甚爾の声が響き渡る。
「恵って……そうだった そうだった」
性別も何も確認しないまま名前をつけた息子だ。
孔がいきなり聞くものだから、「どの女だよ」と思ったが、息子のことを聞いていたのか。納得 納得。
「もうどれくらい会ってねぇかな。確か、神ノ原の双子よりは年下だったろ」
おっと……さっさとお暇するんだった。
【星漿体】を呪霊に呑み込ませ、甚爾は軽い足取りで来た道を戻り、依頼人のところへと向かった。