第36章 リゾルートに揺るがぬ決意【壊玉】
「元からそうなわけ?」
「えぇ。ですが、修練は積みましたよ。ただ合わせるだけじゃ『-1+(-1)=-2』にしかならない。『-1×(-1)=+1』でなければ意味がありませんから」
「術式上、オマエはこれができなきゃほとんどの呪術は使えねぇだろうしな」
術式を看破されたことに警戒したのか。少しムッとしつつ、星也は一つため息を吐いた。
「おぬしら、よもや妾を忘れてはおるまいな」
「あ、わりぃ」
「忘れてませんよ」
星也はどうか知らないが、五条は完全に忘れていた。
「全くそなたは……扱いも乱雑、口の利き方も不敬……」
「ですが、今の戦いで強さは分かったはずです」
「じゃが! あれなら星也でも……っ!」
「僕にも限界があります。強い術式を持っていれば強いわけじゃありません。僕には経験が足りない」
グッと言葉に詰まった理子が、いじけたように唇を尖らせる。
そこへ、ヴー、ヴーと理子の携帯のバイブレーションが鳴った。黒井からのようで、理子が携帯を開き――息を呑んだ。
「どっ、どうしよう! 黒井が……黒井が……‼︎」
メールに文章の記載はいっさいない。ただ、添付写真が一枚。後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされて気を失った黒井の写真だ。
黒井は確か、星良と一緒に音楽室に。
「“星良ちゃん”……!」
理子に断り、星也は携帯を受け取って写真を見つめる。写真には黒井だけ。星良の姿はない。
だが、星也の表情には焦りがありありと見受けられた。
黒井を攫われただけなら、コイツはもっと冷静に頭を働かせられるはず。おそらく、姉の星良が地雷なのだろう。
「天内、星也。焦ってもどうにもならねぇ。まずは傑と合流だろ」
夏油に連絡し、手近なビルの屋上で落ち合うこととなった。