第30章 アルティソナンテに膨らむ想い【起首雷同】
「もういいだろ」
グイッと詞織を立ち上がらせ、いつもの鋭い視線で伏黒がこちらを見てくる。
詞織が自分以外の、それも男と近い距離にいるのが気に入らないのだろう。
下心などないから、いちいち睨みつけないでほしい。
「吉野。はっきり言うが、オマエは気が弱すぎだ」
うっ、と順平は言葉に詰まった。
伏黒に言われずとも分かっている。
元来の性分だ。そう簡単には変われない。
「式神ってのは、術式の中で最も術師の影響を受けやすい。術師が攻撃的なら式神も攻撃的になるし、術師がビビれば式神もビビる」
分かるか、と言われ、順平はコクリと頷く。
ゆっくりと立ち上がると、静かな眼差しでこちらを見ていた。
「影響を受けやすい分、術師の力量に左右されやすいのも特徴だ。強くなりたいって思えば、その分 応えてくれる」
なるほど。だから、伏黒の式神は皆 強いのか。
ついでに……と伏黒の隣を見ると、【玉犬】が詞織に擦り寄って甘えている。
伏黒が詞織を好きだから、式神も詞織に懐いている……というか、めちゃくちゃ好きじゃん。
順平の視線に気付いたのか。
どこかバツが悪そうに、伏黒は「【玉犬】」と詞織に甘えて喉を鳴らす式神を嗜める。
そして、ゴホンッと緩んだ空気を払うように咳払いすると、真剣な表情な切り替わった。