第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
『アハッ♡』
伏黒の姿も消えている。
勝利の余韻に浸る呪霊の胸を、ドスッと【玉犬】の腕が背後から貫いた。
【領域展開】が消失する直前、【玉犬】と共に呪霊の影に潜んだのだ。
「【玉犬】の爪はアレ(花御)にも傷つけた。不意のオマエを貫くくらいワケないさ」
ジワッと呪霊の身体が溶け、ドロドロと消失していく。
「……疲れた」
完全に呪霊を祓えたのか。領域が瞬く間に晴れていった。
八十八橋の下の河原が姿を現し、伏黒はガクリと地面に膝を折る。
「……詞織……」
領域は消失したはずなのに、そこには誰もいない。
詞織も、虎杖も、釘崎も、順平も……。
「……どこだよ、アイツら」
呪霊の身体から出てきた【両面宿儺の指】を見つめる。
一度に大量の呪力を消費したことと、極度の疲労、戦闘による出血多量によって、伏黒は嘔吐し、その場に倒れ伏した。
* * *