第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
「――やめだ」
呪術師の成長曲線は、必ずしも緩やかじゃなくていい。
前に、星也に聞いたことがある。
――「果てなんてない。思い描けばその分だけ、どこまでも自由だ」
影の奥行きを全て吐き出す……イメージしろ。
具体的なアウトラインは後回し。
呪力を練ったそばから押し出していけ――自由に!
――「本気でやれ。もっと欲張れ」
五条の言葉を思い出した。
「やってやるよ……‼」
確かな土俵、一握りのセンスと想像力。
後は些細なキッカケで人は変わる。
俺は死なない。コイツも祓う!
見据えろ! 限界を超えた、未来の自分を――‼︎
伏黒は指を絡め、両手を握り合わせる。
――【領域展開 嵌合暗翳庭(かんごうあんえいてい)】
伏黒の影が広がり、地面が黒く波打った。
「ハハッ‼」
不完全だ。不細工もいいところ。
だが今は――……コレでいい!
急速な呪力の消費、血が吹き出し、額や鼻からボタボタと零れ落ちていく。
唐突に、ガクンッと呪霊の身体がバランスを崩した。呪霊の足元で、波打つ影が何体もの【蝦蟇】を形作り、絡みつく。
逃れようと呪力を纏った拳を振り上げる呪霊の横っ面に、伏黒は素早く駆け出し、蹴りを放った。
もっと自由に!
もっと広げろ――術式の解釈を!
呪力の弾が放たれ、伏黒の額を貫く。その身体はドロリと溶け、影の波へと溶けた。驚く呪霊に、二体の【鵺】が襲いかかる。
負けじと呪霊が呪力を溜め始めた。
呪霊を中心に呪力のドームが広がり、影の波を蒸発させる。一面から影の波が消え、簡素な岩肌の壁が姿を現した。