第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
あの後、藤沼に話を聞きに行った。
彼女は八十八橋の上には行ってない。肝試しは橋の下で行われた。
橋の下には虎杖も行ったが、何もなかったし、何も起きなかった。
だったら、話は簡単だ。上から降りてくるのではダメなのだ。
伏黒は草木を踏み分け、徒歩で八十八橋の下まで降りて行く。
術式を付与した領域を延々と展開し続けるのは不可能。となると、これは少年院のときのような未完成の領域。
今回は逆に助かった。【帳】の必要がない。
道が開け、川の下から橋を見上げる――と、真後ろに人の気配を感じて振り返った。
「自分の話をしなさ過ぎ」
「だな」
釘崎、虎杖がすぐ後ろに立っていた。
まさか、つけて来ていたのか。
「ここまで気づかないとか、マジでテンパッてるのね」
呆れたような口調で言われ、伏黒は視線を逸らす。
「詞織に話は聞いた。別に何でも話してくれとは言わねぇけどさ、せめて頼れよ。友だちだろ」
「話しちゃった。ごめんね、メグ」
一歩 遅れて、詞織と順平もやって来た。
「全員 来たのか?」
「うん。後で新田さんに怒られるかも」
「いいじゃん。全員で怒られれば」
眉を下げて笑う順平に、虎杖はニカッと笑う。
「……詞織に聞いたなら話は分かってるだろ。今すぐ祓わないと津美紀が危ない。けど、任務の危険度が上がったのは本当だ。俺たちの手には余る。だから――……」
「はいはい。もう分かったわよ」
「『だから、手伝ってくれ』、だよね」
「はじめっからそう言えよ」
釘崎、順平、虎杖に「そんなこと言ってないだろ」という言葉は呑み込まれた。
本当はホッとしたのだ。
自分一人では敵わないと思っていたから。