第4章 決意へのマーチ【秘匿死刑】
『全く、いつの時代でも厄介なものだな。呪術師は』
悠然と佇む五条に口角を上げた宿儺の纏う空気が変わる。
肉体の――文様の刻まれた右腕に呪力が集まった。
――ブンッ
右腕が伏黒たちへ向けて振るわれる。だが、伏黒も詞織も動くことはしなかった。
視界が黒い影に覆われる。圧倒的な力が風を巻き上げ、屋上の地面を大きく抉った。
『……だからどうという話でもないがな』
瓦礫が巻き上げた砂塵が不自然に収束する。
見上げれば、瓦礫は空中でピタリと制止していた。伏黒たちは風に煽られただけで、今回の攻撃による傷は一切ない。
五条の背中ほど、安全な場所もないだろう。
「……七、八、九……そろそろかな」
カウントが十秒を数える。
不意に、宿儺の身体に異変が生じた。固まった宿儺の身体から文様がスゥ…と消えていく。
「おっ、大丈夫だった?」
「驚いた。本当に制御できてるよ」
五条が術式を解除したことで、大きな音を立てて瓦礫が地面へと落ちた。
驚いたのはこちらである。
指一本分の力とはいえ、あの両面宿儺が手も足も出せないとは……この男はどれだけの力を持っているというのか。
詞織も、改めて五条の力を目の当たりにしたからか、ポカンとしている。
「でも、ちょっとうるせぇんだよな。アイツの声がする」
「それで済んでるのが奇跡だよ」
そう言って、頭を押さえる虎杖の額に、五条がトンと軽く触れた――瞬間、糸の切れた人形のように虎杖の身体が崩れ落ち、それを五条が受け止める。