第25章 アレグロに青空を駆け抜ける【呪術甲子園】
「プレイボーッ‼︎」
審判役の五条の陽気な声が夏の青空の下に響き渡る。
四番《ピッチャー》禪院 真希がボールを握りしめ、六番《キャッチャー》虎杖 悠仁がグローブを構え、二番《セカンド》三輪 霞がバッターボックスに入る。
真希の投げたボールを三輪が打ち上げた。
「おっ、打ち上げた!」
空を見上げる垂水の隣で、監督役の歌姫が「まだ走るな!」と出塁しようとした桃に指示を出す。
「え⁉︎ なんで⁉︎」
―― 一番《外野手》西宮 桃
三輪の打った球はノーバウンドで狗巻がキャッチ。そのまま桃がいたファーストのパンダへと投げる。
桃は塁を進められず、『アウト』となった。
「ルール知らないなら、先に言いなさい!」
「知ってるよ! 打ったら走るんでしょ⁉︎ ギセイフライ⁉︎ なんじゃ、そりゃ!」
「バカ! シンプルにバカ!」
ギャーギャーと言い合う桃と歌姫を置いて、加茂がバッターボックスに入る。
――三番《ショート》加茂 憲紀
「……特級を退けたらしいな」
「え……いや、東堂と五条先生のおかげっスよ」
謙遜……とは、違うように思える。
純粋に、自分だけの力ではないと言っているし、その勝利を誇示している様子もない。
「虎杖、オマエはなぜ呪術師をやっている?」
尋ねると、虎杖は「ん?」と首を傾げつつ口を開いた。
「キッカケは成り行きっス。寂しがりなんでね。いっぱい人を助けて、俺が死ぬときは大勢に看取ってほしいんスよ」
そう答えて、虎杖はグローブを構える。
幼い頃、似たようなことを母に言われた。
――『母様がいないなら、呪術師なんていらない!』
そう言った幼い自分に、母は困ったように笑って言ったのだ。