第21章 唐突に現れたディソナンス【京都校交流会―団体戦―〜呪具】
「それが御三家……加茂家の人間として正しい判断だと思っている。君にも理解できるはずだ。君と私は同類だろう」
「違います」
一瞬にして怒りが冷めた。
なんか、急に怖いことを言い始めたのだが。
「……違くない」
「違います」
同類どころか、似ていると思ったことすらないし、全く共感しない。
奇妙な空気が流れる中、伏黒は軽く息を吐く。
「そういう話は真希さんにして下さい。俺にもう禪院家との繋がりはありません。それに、俺は自分のことを『正しい』なんて思ってないです」
いや、そうじゃない。伏黒は自分が正しいか間違ってるかに興味がない。正しくあることを自分に課していない。
「ただ、俺は自分の良心を信じてる。自分の良心に従って人を助ける。それを否定されたら、後は――……」
善人は救われるべきだ。
だから、自分が助けるべきだと、生きているべきだと判断した人間を助ける。
他人のことまで気遣える津美紀、誰かを助けるために身体を張れる虎杖……そして、何ものにも揺るがない高潔な心を持つ詞織……。
深く息を吸い込み、自分の中の呪力を練り上げる。
「呪い合うしかないですよね」
主人である伏黒の意思を感知し、不知井底(せいていしらず)が加茂の背後を取る。それに気づいた加茂が振り返り、臨戦体勢をとった。
それを見越して、わざと不知井底を影に戻す。
解除前の式神を使った囮に、加茂に隙が生まれる。
「これは呪力を喰うので、単体でしか使えないんです」
最近 調伏したばかりの新しい式神――伏黒は手を組んで象の影絵を作った。
――【満象(ばんしょう)】
伏黒の影から象の巨体が現れる。
的が大きい分、先手を取られやすい。加茂も同じことを思ったのだろう。だが、そんなことはさせない。
加茂が拳を構えるより早く、満象の太く長い鼻から大量の水が噴き出した。そのまま壁を突き破り、彼は水圧で屋外へと投げ出される。
場所が開けた。畳み掛ける。