第3章 はじまりのプレリュード【両面宿儺】
「それ以上、好きにはさせない――【天雲に 近く光りて 鳴る――……ッ】⁉」
詠唱の途中で、呪霊の手が身体を掴んでくる。
「詞織!」
何が起こっているのか、きっと虎杖には分からなかっただろう。
それは詞織も同じで、状況に頭が追いつかない。
二級呪霊相手に隙を突かれ、完全に後手に回っていた。
畳みかけるようにして呪霊は伏黒の後ろの壁を破壊し、外へと突き落とす。その壁の穴から自らも身を投げ、ついでとばかりに詞織を地面に叩きつけた。
「……ぁッ!」
四階の壁が壊れ、二人は二階の渡り廊下に当たる屋上へと投げ出される。
どうにか死を免れた詞織と伏黒だったが、出血多量もあって、頭が回らない。意識を繋ぎ止めるだけで精一杯だった。
「はぁ……っ」
ゴホッと咳を込むと、血液が込み上げてくる。
瞼を閉じれば、暗闇の向こうで赤い瞳の自分が微笑みかけてきた。