第16章 これから目指すファンタジア【成長/我儘】
「無事みたいだね」
「ウッス!」
さっと虎杖の身体を確認する。
おそらく、身体を何度も貫かれて穴だらけのはずだが、命に別条はなさそう……というか、あれだけ攻撃を受けて、なぜ彼はまだ動けるのだろう?
それに――確かに無為転変を食らったはず。
だが虎杖に異形化は見受けられない。
虎杖の攻撃は真人に通る。さらに、無為転変の影響を受けない。
理由は分からないが――……これは好機だ。
視線の先では、真人がすでに星也の斬り落とした腕を復元している。けれど、そんなことは構わない。
「虎杖くん、分かっているね。奴はここで、確実に祓う」
「応!」
最初に動いたのは虎杖だった。
大きく振りかぶって放たれた拳を、真人は紙一重で躱し、腕を大鎌にして背後から虎杖の首を狙う。
「【オン・ソンバニ・ソンバ・ウン・バザラ・ウン・ハッタ】」
素早く印を結び、降三世明王の力を借りて破魔の光を放つ。真人の鎌の腕が消し飛んだ。
その隙を見逃さず、虎杖は真人の頬に強烈な一撃を食らわせる――……が、その直前で真人は幼い少年の姿へと身体を変化させて躱した。
軽く舌打ちした虎杖の隣に立ち、星也は耳打ちする。
「奴は形を変える直前」
「呪力のタメがある」
どうやら、ちゃんと観察していたようだ。
虎杖を「上出来」と褒めてやると、緊張した表情の中で、微かに喜びを滲ませる。
目の前では、真人が少年体から青年体へと身体を戻していた。
そして、頬を膨らませ、「う」と呻く。
「おぇっ」
嘔吐(えず)きながら、真人が口から小さな人形を吐き出した。
その人形には見覚えがある。異形にされた人間だ。