第15章 思惑の入り乱れるカンタータ【固陋蠢愚~殺してやる】
「なっ……なんで、避けないんだよ……」
澱月の攻撃は決して遅くはない。
しかし、虎杖に避けられない速さではなかった。
ボタボタと、澱月の棘を伝って、虎杖の胸から血が流れる。
ズルリと棘が抜かれた。ふらつく足で身体を引きずり、血を滴らせながら、虎杖はゆっくりと順平の前に膝をつく。
「ごめん……何も知らないのに、偉そうなこと言った」
深い絶望が紡ぎ出させた順平の言葉を聞いて、ようやく分かった。
目を覚さなければいけなかったのは順平ではない。自分だ。
間違っていたのは自分だった。
自分の言葉を順平に届けるのではない。
順平の言葉を、自分が受け止めなければいけなかったのだ。
どうして分からないんだ、ではない。
自分が分からなければいけなかったのだ。
「何があったか話してくれ。俺はもう、絶対に順平を攻撃しない。だから……‼」
虎杖の思いが伝わったのか。
順平はギュッと拳を強く握りしめ、数秒の沈黙の後、震える唇を開いた。
「母さんが死んだ……」
「え……?」
脳裏に、大きく口を開けて笑う、順平の母が過ぎる。
よく笑い、よく喋る、懐の広い、温かな人だった。
「なんで……」
「そんなの分かんないよ……! でも、きっと……呪詛師に呪われたんだ。呪詛師は金さえもらえば誰でも呪う。僕をイジメた奴らが、僕を苦しめるために母さんを呪ったんだ……! だから……だから、僕は……‼︎」
大きくしゃくり上げ、順平は奥歯を噛み締めた。震える順平の肩から、彼の絶望が伝わってくるような気さえする。
許せない。
母を殺した奴が許せない。
復讐したい。殺してやりたい。
その感情を理解して、自分がいかに無神経なことを言っていたのかを同時に理解する。
虎杖は順平の手を握り、まっすぐに涙で濡れた瞳を見た。