第14章 トランクィッロに募る【幼魚と逆罰】
「アレ? 今、ちょっと揺れた?」
「そうだね……震度2くらい……?」
河川敷の石段で順平と話しながら、虎杖はスマートフォンを弄っていた。掛けている相手は伊地知だ。しかし、全く電話に出る気配はない。
――ちなみに、虎杖は知る由もないが、伊地知は虫取り網を片手に、もう一匹の蠅頭を追いかけているところだった。
呪霊や映画館でのことを、自分が聞いてしまってもあるいいのだろうか。それに、高専のことはどこまで話していいのだろうか。
ぐるぐると頭を悩ませていた虎杖は、「あー、もういいや!」と踏ん切りをつけ、蠅頭の頭を掴み、順平に突き出した。
「なぁ。この前、オマエが行った映画館で人が死んでんだ。なんか見なかった? こういうキモイのとか」
「いや、見てないよ。そういうのハッキリ見えるようになったの、最近なんだ」
ビクビクとしながらも、それは蠅頭に怯えているような気配に感じられなかった。順平の態度は、どちらかというと、知り合ったばかりの同世代と話すことによる緊張だ。
なるほど。映画館で呪霊は見ていないのか。
「そっかぁ……じゃあ、もう聞くことねぇや!」
「えっ、もう?」
軽く目を見瞠る順平に虎杖は頷く。
「一応、俺の上司(?)みてぇは人が来るまで、待ってくんない?」
「いいけど……」
なんと話の分かる子だろう。コイツ、めっちゃいいヤツじゃん。
一気に親近感の湧いた虎杖は、順平の座る石段の隣に腰を下ろし、「なぁなぁ」と話しかける。
「映画館で何 観てたの?」
「昔のリバイバル上映だから、言っても分かんないよ」
はぐらかそうとする順平を、「いーから いーから!」と促すと、彼は教えてくれた。