第58章 アジタートに昇華する【渋谷事変】
――23:41
渋谷警察署 宇田川交番跡
『夏油!』
「助けてあげようか、真人」
真人の呼びかけに、夏油と呼ばれた袈裟姿の男がニヤリと笑った。
夏油――聞き覚えがある。メカ丸が教えてくれた、この渋谷の一件の首謀者。
伏黒や詞織の話では、100人以上の一般人を呪殺して高専を追放され、去年 【新宿・京都 百鬼夜行】という呪術テロを起こした最悪の呪詛師。
すでに処分されたらしいが、何者かが身体を乗っ取っているとのことだ。
袈裟に額の傷――間違いない。五条を封印した【獄門彊】を動かせずに渋谷駅の地下五階にいたはず。それがここにいるってことは……。
「……返せ! 五条先生を返せ‼」
虎杖は夏油へ迫るが、彼は慌てた素振りもなく佇んでいた。
「鯰が地震と結びつけられ、怪異として語られたのは江戸中期。地中の『大鯰』が動くことで地震が起こると信じられていたんだ」
そう語る夏油の手から呪霊が召喚されると、地面に潜り込んだ。鯰呪霊は口を開き、走っていた虎杖の足元に巨大な穴を広げる。
「なっ⁉」
次の瞬間には背後から地面に倒れており、何が起きたのか自分でも分からない。
「落ちたと思っただろう? 傍から見れば、君が勝手にひっくり返っただけなんだがね」
クスクスと笑いながら夏油は続けた。
「【呪霊操術】の強みは手数の多さだ。準一級以上の呪霊を複数 使役し、術式を解明・攻略されようと、また新しい呪霊を放てばいい」
もちろん、その間を与えず畳みかけるのもいいだろう。
放たれた呪霊がムカデのような触手をいくつも伸ばし、虎杖を捕らえた。