第58章 アジタートに昇華する【渋谷事変】
――22:36(現地時間)
マレーシア クアラルンプール
「すまなかったね。疲れたろう、憂憂」
高級ホテルのVIPルーム。冥冥はキングサイズの柔らかなベッドに全裸で横たわり、可愛い弟に微笑んだ。
「今日はこのまま一緒のベッドで寝ようか」
「そんな……! はしたないですよ‼」
憂憂が顔を真っ赤にしながらも期待したような目でこちらを見る。そんな弟の頬に、冥冥は手を伸ばし、ほっそりとした指先で撫でた。
「ふふ……はしたない私は嫌いかい?」
「そんなわ――」
憂憂の言葉を遮るように、冥冥のスマホのバイブが音を立てる。
「すまない。折り返しが入った」
「もうっ! 姉さまったら‼」
拗ねたように言う弟をベッドに残し、冥冥はバスローブを着てベランダへ出た。
「夜分にすまないね。あぁ、そっちは朝か。私? KL(クアラルンプール)。そう、憂憂の術式だ。殺されそうになったんでね」
憂憂は、あらかじめマーキングしておいた場所や人に飛ぶことができる術式を持っている。その術式範囲は広大で、日本からマレーシアまで移動できるほどだ。
「日本の株と東京の不動産は全て売り払った方がいいよ。私はもう円も替えた。そう、今すぐだ」
主要先進国への負の連鎖も免れないだろう。腐っても日本は世界第三位の経済大国だ。
「まぁ、塩梅は任せるさ。いいよ、お礼なんて。いつも通りインサイドでいてくれたら」
今後ともよろしく、と小さく笑い、冥冥はマレーシアの夜景を眺めながら通話を終えた。
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