第55章 永久を願うコン・アモーレ【渋谷事変】
――23:38
首都高速三号 渋谷線 渋谷料金所
疲労もあって、星良は灰原と一緒に七海を連れ、一旦 家入のいる拠点まで戻ってきた。
家入はすぐに提携先の病院に連絡を入れ、自動車を呼んでくれている。
七海をベッドに寝かせ、星良は枕元に椅子を持ってきた。
「……灰原は?」
再び意識が戻り、七海が掠れた声で尋ねてくる。喉の火傷が残っているようだ。
「灰原さんは、隣の部屋で【折神】の補充をしてます」
そうですか、と七海は短く返事し、力の入らない左腕をぎこちなく動かし、顔の左側に触れる。
「星良さん……」
「はい」
「婚約……解消しましょう……」
え、と乾いた声が喉から出た。なんで、と尋ねる間もなく七海は続ける。
「私の半身は、もう満足に動かすことはできません。治る見込みもない。あなたも よく分かっているはずです」
「それは……」
七海の言う通り、左半身を完治させるのは難しい。
もちろん、不可能ではない。
星良の【反転術式】の技量は【書字具現術】に依存している。欠損部分の復元や完治は、本来【反転術式】では不可能だ。
だが、深い傷を治そうとすれば、その分 呪力の要求が大きくなる。現状 七海を優先して回復させることはできない。
加えて、時間が経てば経つほど呪力消費は膨大になり、実質 不可能となる。
「このまま結婚しても、あなたに負担を掛けてしまう場面が必ずある。それに この傷は周囲から奇異の目を向けられ、あなたにも嫌な思いをさせてしまうでしょう。星良さん、あなたはまだ若い。私でなくとも、良い相手はいくらでも見つかります」
七海の言葉が腹立たしくなかったといえば、嘘になる。彼に対してこれほど腹を立てることは、きっと後にも先にもないとすら感じた。