第2章 神ノ原の惨劇
「……詩音、もういいよ」
ずっと沈黙を守っていた詩音の片割れである詞織が、初めて口を開いた。
「わたしが死ねばすむ話。わたしが死ねば、わたしのチカラは詩音にかえる」
大丈夫。詩音は強いから。
きっと、誰にも負けない、誰もを助ける、立派な呪術師になる。
詞織は自分の首に手を掛けた。
「やめて、詞織……やめて……あたしは、あなたがいたから今日まで生きてこられたのに……ひとりじゃ……詞織がいないセカイじゃ……生きていけない……」
懇願するように。縋るように。自分と同じ顔をした少女が、夜を思わせる瞳にたくさんの涙を湛え、詞織の手に触れた。
「……ゆるせない……ゆるせない……"ゆるさない"……詞織をころさせようとするオマエたちが……あたしたちの存在をみとめないセカイが……」
ころしてやる。ころしてやる。ころしてやる。
ブワッと、場の空気が塗り替えられた。
ビリビリと肌を焼く熱に、詞織は息を呑む。
目の前の少女の瞳が濁り、一滴の血が広がるようにして、真っ赤に染まっていった。
「詩音……?」
少女は呼びかけに応えないまま、小さな世界を塗り潰した。
――神ノ原一門。御三家に次ぐ権力を持つこの一族は、門下生も含めて一日で絶えた。
生き残ったのは、当主になったばかりの星也、星也の双子の姉である星良、そして――特級被呪者となった詞織の三人だけ。
この日のことは、【神ノ原の惨劇】として、呪術界に大きな爪痕を残したのだった。