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十六夜の月【アイナナ短編集】

第5章 五夜目.雨




—16小節目—



数日後。エリは再び壮五の元を訪れていた。彼が作ってくれた肉じゃがはとても美味しくて、自然と頬が綻んでしまう。
交わされる会話は自ずと、壮五のこれからについてになった。


『壮五さんならきっと、大人気のアイドルになれるね』

「そ、そうかな。あまり自信ないんだけど」

『ふふ。まぁもしアイドル業が波に乗らなくても、私が壮五さんを養ってあげる!』

「エリさん、男前過ぎるよ」


力なく笑った後に、壮五は影を落とした表情で箸をテーブルの上に置いた。


「自信がない、なんて弱気なことを言ってたら駄目だな。僕は…何がどうあっても、この業界で功を成すって決めたんだから」

『……壮五さん。お父様には、この事は』

「一応話は通してあるよ。いくら勘当同然だとは言え、後から知られて面倒になるのは御免だから」


父親や本家の話をするときの壮五は、まるでいつもと別人であるような顔をする。そんな彼に、家族なのだから話せば必ず分かり合えるよ!などと、どの口が言えようか。
そもそもエリとて、曲がりなりにも名家の娘。壮五の気持ちは痛いくらい分かる。従って、余計な言葉は吐かなかった。

ただ、今ではなくいつかは。いつかで良いから、彼が家族と心からの笑顔で話せるようになれば良いと密かに願う。

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